斎藤静樹著 『企業会計入門』から-企業会計の役割⑦

ぎばーノート~ギバー(Giver)という生き方の記録

会計基準や監査制度の役割

経営者がもっているはずの情報を隠せば、企業のリスクは高く見積もられて資金調達のコストが上がりますから、投資家に必要な会社情報は、制度で強制されなくてもかなりの程度まで開示されそうな気もします。となると、ディスクロージャー制度やそれを支える会計基準には、どのような意味があると考えたらよいのでしょうか。

また、開示される会計情報には、開示企業から独立した職業的専門家である公認会計士の監査が要求されていますが、有用な情報を自発的に開示しようとする誘因が企業の側にあるとしたら、これにかけるコストはなんのためでしょうか。会計士の監査は、コストにみあった役割を果たしていると思いますか。あなたが会計士を代表する立場にあるとして、経済団体から監査報酬の大幅な引き下げを要求されたらどう反論しますか。

『企業会計入門』 斎藤静樹著 有斐閣 P36

最初の一文は、なかなか難解なことを言っています。「経営者が情報を隠すと、企業リスクが高く見積もられる」という点は、いいですね。そうなると、「資金調達のコストが上がる」という点が難解です。理屈としてはそうかもしれませんが、この議論はかなり抽象的だと思います。

「今は、企業内容等開示制度(ディスクロージャー制度)があるので、投資家は安心して企業の投資をすることができる。それがなければ危なくて投資できない。それでもリスクを冒して投資をするならば、もっと大きなリターンを要求する。」という理屈はあると思いますが、「もっと大きなリターンを要求する」ということが「資金調達のコストが上がる」と同義として書かれているのでしょうか。

債権者にあてはめて考えた方が分かりやすいかもしれません。「リスクが高ければ金利が高くなる。リスクが低ければ金利が低くなる。」これは間違っていないと思いますが、それは情報を隠す隠さないというより、企業の業績によって(つまり回収リスクによって)もらうべき金利が決まってくるのかなと思います。

仮に、 企業内容等開示制度がないものとして、ある企業が積極的にリスク開示に努めた場合、果たしてその会社だけ資金調達コストが下がるかと言えば、「ノー」だと思います。そうなるイメージが全くわきません。

各社が全体最適に向けて自発的に動きだすということは考えにくく、「投資家に必要な会社情報は、制度で強制されなくてもかなりの程度まで開示されそうな気もします」としている先生の思い(仮説)が納得できないのです。

そのため、「ディスクロージャー制度やそれを支える会計基準には、どのような意味があるのか」という質問に正確に答えられないというのが、私の回答になります。

ディスクロージャー制度は、資本市場の活発化とその健全な発展のために、必要不可欠なものだと思います。

そもそも情報の非対称性は埋めることができません。それは極力「埋める」のではなく、極力(情報の非対称性を)「一定程度均質に保たれる」べきなのであって、そのために、ディスクロージャー制度が果たす役割はとてつもなく大きいと思っています。

例えば、業績予想の修正について、現在東証では、売上ならば予想値の10%の増減、利益ならば予想値の30%の増減が発生しそうな場合には、直ちにその内容の開示を求めています。

こういった開示は、ルールがない限り多くの企業がまちまちに発表するでしょう。いや、発表しないまま本決算の数値がリリースされるかもしれません。問題なのは、(ルールがなければ)各社まちまちであるということです。そのため、資本市場全体の信頼性が担保されず、投資がしにくくなります
調達コストの問題以前に、資本市場が成り立たなくなってしまうと考えます。

加えて、先生は会計基準の意味を問うていますが、この文脈の中で問うのはちょっと無理があるような気がしました。一つだけお答えするならば、一つの基準がないと、開示される財務諸表の前提がバラバラになるということです。これは、確実に資本市場全体の信頼性を損なうことになります。

2段落目の質問ですが、「有用な情報を自発的に開示しようとする誘因が企業の側にあるとしたら、」と枕詞がついています。この前提に疑念があります。基本的によい情報はリリースしようとする誘因が働き、よくない情報はあまり出してくないという誘因が働くはずです。つまり自発的に開示する誘因は、その情報次第です。

枕詞がついた上で「公認会計士にかけるコストは何のためか」と問われていますが、(枕詞を忘れて)単純にこの質問に回答するならば、会計監査によって、財務諸表の信頼性が担保され、投資者が安心して投資をしてくれるため」だと思います。

杓子定規な回答のように聞こえるかもしれませんね。もう少し踏み込んでみます。
長年上場会社の監査に携わって感じるのは、会社と監査人が戦うのは、お互いに非常にパワーを必要とし、ストレスフルなことです。会社には会社なりの理由が10ぐらいあるものです。それでも、とことん納得するまで議論をし尽くさなければいけません。それが監査のプロセスで行われます。

こういったガチンコの議論を経て、出来上がった財務諸表であるならば、それは適正だと言えるのではないでしょうか。投資者はその適正な財務諸表をみて企業実態を判断し、安心して投資をすることができます。

会計士の監査は、コストにみあった役割を果たしているか」という問いですが、これは、監査人の側からすれば「はい」と力強く言うことができます。少なくともマクロ的にみて、コストに見合った役割を果たしています。

しかし、企業の側からすれば、マクロ的な視点はないでしょうから、ミクロ的に見て「高い、安い」という気持ちはあると思います。監査法人はたくさんあり、しのぎを削っていますから、もし「高いかつ不満足」と思われたら、監査人が異動(交代)になるのは仕方のないことです。

最後に、「会計士を代表する立場にあるとして、経済団体から監査報酬の大幅な引き下げを要求されたらどう反論しますか」という、非常に骨っぽい質問をいただきました。

まずは、監査の歴史の長い先進諸国の監査報酬(単価×時間)を比較対象として、決して高くないことを説明するでしょう。

また、お互い改善すべき点をとことん説明(議論)することで、反論すると思います。どういうことかと言いますと、監査時間を適切に計算してこなかったことをお詫びすると思います。最近急ピッチに解消されつつありますが、今までは、関与メンバー各自のチャージ時間が正確に集計されていない問題点がありました。(その理由はいろいろあります。)

そして、時間がもっとかかっているという実態説明をすれば、ますますハレーションが起こると思われます。そこですかさず、「監査人がやらなくてもよいことを、会社に代わってやっている」ことを正確に説明していくと思います。この話をすると、それだけで何回にも分けて説明する必要がでてきますので、この辺で終わりにしたいと思います。