斎藤静樹著 『企業会計入門』から-企業会計の役割⑥

ぎばーノート~ギバー(Giver)という生き方の記録

現在までの情報と将来の予測

会計情報というのは予測を含むこともありますが、基本的には現在までの事実や実績を開示するものでしかありません。それにもかかわらずこの情報は、投資家が企業の将来を予測するのに役立つことを期待されています。予測のリスクを自己責任で彼らが負うのと引き換えに開示される投資情報が、投資を判断するときまでの事実に限られる点は気になりませんか。個人は過去の履歴や成績でしばしば将来を判断されますが、企業ではそれは同じでしょうか。経営者による予測や企業価値評価は、この問題の解決に寄与するでしょうか。それともノイズになるだけでしょうか。

『企業会計入門』 斎藤静樹著 有斐閣 P35

まず、「会計情報というのは予測を含むこともありますが、基本的には現在までの事実や実績を開示するもの」という点について、少し触れてみたいと思います。

このうち「現在までの事実や実績を開示するもの」という点については、特に解説は必要ないかと思います。少し嫌らしいのは、「予測を含むこともありますが」という件(くだり)です。こういう、何気ない説明は、さらっと読めば読み流せるものの、しっかり理解したいと思えば、実にいい加減な表現だなと気になりませんか。

これは何を言っているかというと、将来損失することがかなりの確率で見えているときは、損失が予測された時点で損失処理をすべきという会計上のルールがあることを言っています。

例えば、ある会社が決算期後、決算発表までに倒産したとします。決算日時点(つまり貸借対照表日)では倒産していなくても、決算発表時にはその会社に対する売掛金は、少なくとも全額返ってくることは望めないので、必要な額まで貸倒損失をいれなければいけません。あるいは、今抱えている在庫が、その帳簿価額より高く売ることが不可能な場合、例えばコロナで通常の販売が見込めず、売り切る前に賞味期限を迎えてしまうようなものがあれば、それらは売れないことを前提に、決算日時点で損失処理します。

そのため、「予測を含む」と言っています。これは、損失のみ先取りするルールがあると思っていてください。

開示される投資情報が、投資を判断するときまでの事実に限られる点は気になりませんか。
この問いについては、私も「はい、(開示される投資情報は)ちょっと今一つですね」と思います。でも仕方がありません。予測情報を大きく取り入れれば、将来の結果とずれる可能性が増大し、それこそ何が事実か分からなくなってしまうからです。

個人は過去の履歴や成績でしばしば将来を判断されますが、企業ではそれは同じでしょうか。
この質問は少し面白いですね。確かに個人は法人ほど変われない存在かもしれません。それでも、全く違う分野に転職することだってあるし、昔は発揮されなかった能力が新天地で発揮されることもあるでしょう。

企業は多角化したり、選択と集中したり、あるいは、新しい会社を買収する、売却することで、一般的には成長と発展を目指す存在ですそのため、個人と比べると予測がしにくいのかもしれません。過去の情報が、将来予測という点において、個人よりも劣るのかもしれません。

経営者による予測や企業価値評価は、この問題の解決に寄与するでしょうか。
ここですが、私は大いに「はいその通りです」と答えたいと思います。「問題の解決」という言い方が少し気になりますが、「過去情報による、将来予測可能性の限界を補うものとして、非常に有用な情報」だと思います。

ただし、経営者は当事者である点には注意が必要です。第三者として客観的に評価できる立場ではありません。そのため、将来行おうとしていること、あるいは市場予測を、すべてバラ色に描くことも可能です。そのため、情報を受け取る側のリテラシーが大事になってきます

それとて、「非常に有用な情報」と声を大きくして言いたいのは、経営者は、自らの意思決定権限で、将来のビジネスを遂行することができるからです。一部株主総会の同意を得なければ進めることのできない話もありますが、大抵のことは経営者の意志で実行可能です。経営者の情報は、まさに、一次情報なのです。

最後付け足しとなりますが、先生が言われる「ノイズになるだけ」ということはありませんが、もし、経営者による予測を100%言った通りに受け入れるだけだと、結果ノイズだった、結果はすべて違ったということもあるのかもしれません。

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