【日経ビジネス】 2021/11/15

ぎばーノート~ギバー(Giver)という生き方の記録

藤中潤(日経ビジネス記者) 「東芝も米GEも 会社分割について知っておきたい10のこと」

会社分割について、基本的な事項を10項目に分けて、平易に解説してくれている。

以下の感想は、この記事だけでは東芝の情報が足りないので、自分で東芝のウェブサイトを見た上でのものである。

今回東芝がとった手法は「スピンオフ」。これは、会社の一部門を切り離し独立させ、かつ元企業との関係が切れないことを言う。野村證券の用語解説集(スピンオフ)が分かりやすいので、リンクを付けておく。

もし、もっと実務に即して知りたい場合は、マネックス証券の解説(スピンオフとは)が素晴らしいので、こちらもリンクをつけておく。

メリットとして、「元の会社の経営者は中核企業に専念することが可能になる」と「コングロマリット・ディスカウントの解消につながる」と書かれている。

前者は教科書的にはそうかもしれないが、東芝の場合は、これに当たらない気がする。中核会社をむしろスピンオフするからだ。子会社が296社あって、各セグメントを統括する会社がなかったから、「インフラ」と「デバイス」の2つにまとめたということなのか。

中核会社をスピンオフするので、親会社の機能が見えない。スピンアウトを予定しているキオクシア(40%保有)と東芝テックの管理とあるが、キクオシアは現金化するとはっきり書かれているので、東芝テックしか残らない。この会社は「リテール&プリンティングソリューション」セグメント(以下、「リテール・プリント」)の会社である。

株主総会で使ったスライド(株主価値向上に向けた東芝の変革)は、株主にアピールするために作成されたもので、BeforeーAfterをはっきりさせていないので分かりにくいが、結局、「インフラ」に4つのセグメントをまとめ、「デバイス」は独立させ、非中核の「リテール・プリント」を本体に残すということが見えてくる。

5:コングロマリット・ディスカウントとは? 

 多くの産業を持つ複合企業(コングロマリット)の企業価値が、各事業の企業価値の合計よりも小さい状態。多角化は業績変動を減らすなどの利点がある一方、事業の全体像や相乗効果が見えにくい場合は市場評価を下げやすい。

「 東芝も米GEも 会社分割について知っておきたい10のこと 」 藤中潤 日経ビジネス 2021/11/15

これは今回ニュースで盛んに言われている(実際に東芝のスライドにも書かれている)が、新しい再編で、ディスカウントが解消されるのであろうか。これはスピンオフのメリットの教科書的な回答であり、東芝には当たらない気がしている。

理由は、「インフラ」の売上は2兆1千億円。対して「デバイス」は8,700億円、「リテール・プリント」は4,500億円。圧倒的にインフラの規模が大きく、以前4つのセグメントを足し合わせた複合企業に見える

記事には、税制上のメリットも書かれている。スピンオフという手法は、17年の税制改正で、一定の条件を満たせば課税の繰り延べが認められるようになった。これがなければ、スピンオフは(株主価値を既存するので)不可能だ。

ただ、日本では驚くほど事例が少ない。日本ではフィットネスクラブ運営のカーブスホールディングスだけであると紹介されている。

結局、東芝の株主価値向上に向けた変革とは何だったのか。それは、スライドのP10とP11にあると考える。

P10にスピンオフのメリットとして「株主還元の拡大」をあげ、1)キオクシア株式を実務上可能な限り速やかに現金化、2)手取り金純額を全額株主還元、とさらっと書かれている。

キオクシアは株式上場が延期となっており、おそらく現在非常に敏感な時期だと思う。そのため、東芝のスライドには一切の情報が書かれていないが、時価総額は、場合によっては3兆円という記事もあった。東芝は40%保有しているので、1兆円近い価値を得ていることになる。これを全額株主に還元すると宣言してしまった

P11でも配当や自己株式の取得をコミットしている。平均連結配当性向を30%すると。そして、すでに今年6月に特別配当@110を出している。キオクシアのインパクトに比べると小さいかもしれないが、すべてのカギは株主還元である

東芝は「株主還元の拡大」に最大限腐心したのだが、私の中でどうしても払拭できない疑問が残った。それは、「株主還元の拡大」をスピンオフのメリットとして説明していることだ。私の頭の中では、この2つが結びつかない。スピンオフしなくてもキオクシアの向こうの事情で上場し、東芝は巨万の富を得ることになるし、配当性向を上げることも自己株式の取得もできる。現に今までし続けてきた。

もしかしたら私が大きな見落としをしているのかもしれないので、引き続き注視していきたい。

最後に、スピンオフ後の「インフラ」と「デバイス」の会社は2023年の今頃に株式上場を予定している。株式を上場しないと、株式を割り当てられた現東芝株主は自由に売買できないから、これは必須なのである。2期分の会計監査が必要であるので、超最速プランと考えてよいだろう。

関係者は本当に大変である。

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