森永輔(日経ビジネスシニアエディター) 「習近平が新歴史決議で書き換えたかった『あの部分』」
これ、すごいインタビュー記事です。日経がこんな記事を載せるとは正直驚いてしまった。
習近平政権が11月11日、6中全会の場で新たな歴史決議を採択した。これについて、東京大学教授の高原明生氏にインタビューしている。
歴史決議は今回3回目。最初は、毛沢東が1945年に出したもの。2回目は鄧小平たちが1981年に採択したもの。2回目については、「毛沢東の階級闘争至上主義を否定すると共に、華国鋒を打倒した後の新指導部が新しい路線に踏み出すことを正当化する狙いがありました。」と解説している。
今回の歴史決議は直近の過去を否定して新方針をうたうものではありません。ただ習近平(シー・ジンピン)国家主席の権威を高め、習氏と中国共産党が今後も政権を担うことを正当化しようと試みるものでした。この点を指して、私は今回の歴史決議を「習近平の習近平による習近平のための歴史決議」と呼んでいます。
このような政権が続くので、中国に暮らす人々は一面ではたいへんだと思います。
習近平が新歴史決議で書き換えたかった『あの部分』」 森永輔 日経ビジネス2021/11/16
この時点で高原教授、踏み込んだことを言うなと思った。「どうしてたいへんなんですか。」という問いに対して、以下のように回答している。
同調圧力が非常に高まっているからです。習近平政権に対して異論を述べることができない空気が中国社会にまん延しています。共産党員はもちろん、一般国民も同様です。
習近平が新歴史決議で書き換えたかった『あの部分』」 森永輔 日経ビジネス2021/11/16
こんなに直截に発言する中国研究家・ジャーナリスト・ウォッチャーを初めて知った。
これに続いてエピソードまで紹介している。北京大学に招かれてオンライン授業をしている途中、学生に教えている教授自身が会議から排除されてしまったという。会議はテンセントのVooVを利用していたが、おそらく「尖閣諸島」という表現を数回使ったからではないかと指摘されたという。中国では「釣魚島」と言うのだ。
ー中国において「歴史」はどのような役割を持つのでしょうか。
高原:歴史はすなわち政治です。権力闘争に勝利した者が、自分の立場を強化するために書くことができる。
習近平が新歴史決議で書き換えたかった『あの部分』」 森永輔 日経ビジネス2021/11/16
これも驚くべき発言だ。立場を強化したいのは、「任期を廃止して続投したいからですが、根本には統治の正当性を欠いていることがあります。」といい、共産党政権の正統性にまで踏み込んでいる。
実は鄧小平たちが1981年に採択した前回の歴史決議には、習近平国家主席にとって触れてほしくない箇所があるのです。それは失脚させた華国鋒の罪状を記したくだり。いくつかある罪状の1つとして「自分に対する個人崇拝をあおり、それを受け入れた」と指摘しています。これは、まさにいま習近平国家主席が進めていることです。
習近平が新歴史決議で書き換えたかった『あの部分』」 森永輔 日経ビジネス2021/11/16
華国鋒の生誕100周年を記念する式典で、中国共産党序列5位の王滬寧(ワン・フーニン)政治局常務委員は、華国鋒の実績を肯定したという。「党に忠実で、派閥をつくることもなかった」と、1981年の歴史決議での批判には何も触れなかったと、高原教授は指摘する。
この記事のインパクトがあまりに強烈すぎて、とても私見を述べることはできない。日本に、こんなに危険を顧みず、頼もしく、気骨のある学者がいるとは、知らなかった。早速高原氏の著作をブラックフライデーですべて買おうと思ったが、氏は本をほどんど書かれていない。共著がいくつかある。「証言 戦後日中関係秘史」と買ってみようと思う。