斎藤静樹著 『企業会計入門』から-企業会計の役割⑤

ぎばーノート~ギバー(Giver)という生き方の記録

キャッシュフロー計算書

大学の会計学の授業で、ゲスト・スピーカーとして招かれた会社の社長が、株主の評価が高い会社とは?という学生の質問に、「現金をたくさん稼いで、それを有効に使っている会社」と答えました。それに対して学生からは、「それなら投資情報としていちばん大事なのはキャッシュフロー計算書ですね。この授業はバランスシートや損益計算書の話ばかりですが、少しピントがずれていないですか」という問いが出されました。

即答しかかった社長さんを制して、先生は「よい質問ですね。誰か僕らに代わって答えてくれませんか」と学生たちに発言を促しました。あなたの考えを聞かせてください。

『企業会計入門』 斎藤静樹著 有斐閣 P35

斎藤先生は「よい質問ですね」と言っている以上、とびっきりいい答えを持っているのだと思います。That’s a good question!というのは、本質を突いた質問で、かつ「待ってました!」と自分が答えられるものに限ります。

まず最初に、社長さんの「株主の評価の高い会社」の定義は正しいとして論を進めたいと思います。欧米の資本市場で評価される会社は、まさに社長のおっしゃった通りの会社だと思います。

FCF(フリーキャッシュフロー)が、企業価値を最大化する大きな要素ですし、それを効率よく使わないと、無駄が生じて、大きな資産の割には稼ぐ能力が高くならないからです。

例えば典型例は、総資産が200億円ぐらいあるとして、現金預金が100億円を超えているような企業です。
現金預金100億円は、預金の利子はもちろんのこと、せいぜい頑張って投資信託などで運用しても、そのリターンは限られています。今(2021年10月現在)はまだ、世界的な株高のため、投資信託の運用の成果は悪くないかもしれませんが、投資会社でない以上、そのような投資の成果を株主は評価しないでしょう。

さて、①現金をたくさん稼ぐことが大事、②キャッシュが大事、③財務諸表の中では「キャッシュフロー計算書が一番大事」という論法で、質問が発せられました。

さっと聞くと、すーっと流れていく質問ですが、どうでしょうか。私は、②と③の間にかなりの飛躍があると思いました。

キャッシュフロー計算書というのは、前期末の現金預金の残高が、当期、どういう性質の資金の出し入れが行われて、期末の現金預金の残高に至ったのかを示す計算書です。資金の性質を営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3つに分けます。

超シンプルに言えば、営業キャッシュフローは大きければ大きいほど「現金をたくさん稼ぐ」ことになります。投資キャッシュフローは、一般的にはマイナスがよいと言われています。企業が成長するには、投資をし続けることが必要だからです。投資キャッシュフローが大きくプラスになっている会社は、リストラ等で資産の売却に踏み切っているケースが多いです(本社ビル売却等)。最後の財務キャッシュフローはプラスマイナスのどちらがいいかは一概に言えません。

さて、このキャッシュフロー計算書、どのように作成されるのでしょうか。理屈は置いておくとして、実務上はほぼ100%、バランスシートと損益計算書に基づいて作成します。ですから、バランスシートと損益計算書なしには、キャッシュフロー計算書を作ることができません。

それとキャッシュを生み出すために、会社はどんな資産を利用して、またどんな資産に投資しているのか、といった情報も、バランスシートをみないと分かりません。会社の売上、原価、販管費、営業外などの各区分損益の状況、利益率などの情報は損益計算書をみないと分かりません。

つまり、キャッシュをどう稼いだのかという情報を知るには、バランスシートのストック情報と損益計算書のフロー情報が必要なのです。

キャッシュフロー計算書は、1年間のキャッシュの増減を分かりやすく示してはくれますが、一番大事な営業キャッシュフローについては、バランスシートと損益計算書から間接的に作成しますので、一見して分かりにくいです。キャッシュの儲けを直感的に把握することができません。

よって、私の答えは、「投資情報としていちばん大事なのはキャッシュフロー計算書ではなく」、「利用目的に応じて3つともそれぞれ大事」としたいと思います。

なお、一人の会計士として、踏み込んだ発言をするならば、究極的にはバランスシートと損益計算書さえあれば、キャッシュフロー計算書はほぼ作れてしまうので、キャッシュフロー計算書の必要性は少し落ちると、思っています。