オートファジーという言葉を知ったのは最近である。とあるセミナーで一緒の席になった女性から教えてもらった。そのときは、「オートファジー」という名前は忘れてしまったが、「16時間何も食べないようにしているのです」というルールだけ覚えていた。
その方は、20時までに夕食を済ませて、朝食はスキップ、12時以降に昼食をとるという。
シンクロニシティーが続き、オートファジーでダイエットという話しを2回ほど聞いた。それで覚えた。
最初に、アマゾンで関連本を検索していたら、『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』水島昇著に出会った。Kindle Unlimitedだったので、早速レンタルした。
著者は、基礎生物学研究所(岡崎市)にて大隅良典教授の下でオートファジーの研究を行った、東京医科歯科大学の教授である。
まず、オートファジーとは何か、正確に理解したい。
オートファジー(autophagy)とは私たちの細胞の中で起こっている大規模な分解作用のことである。オートファジーという用語はギリシャ語の「自分」(オート auto)と「食べる」(ファジー phagy)を組み合わせたもので、文字通り自分を食べるという意味をもつ。日本語では「自食作用」と訳されることもある。これは細胞丸ごとを食べてしまうようなものではなく、細胞内の一部を少しずつ、しかし時に激しく、分解する(食べる)行為を指す。
『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』 水島昇 PHPワールド・サイエンス新書 No.12
この本は、学術入門書である。そして、ダイエットについては、実は「コラム」欄に以下のようなことが書かれている。
「オートファジーでダイエットすること(痩せること)はできますか?」という質問をよく受ける。しかし、残念ながら答えは「難しい」ということになろう。 太っているというのは通常、脂肪が脂肪細胞に過剰に蓄積していることをいう。脂肪細胞には核より大きな「脂肪滴」(図1‐9)という油の固まりが細胞質にあり、脂肪滴が細胞のほとんどの容積を占めるような状況になっている。そのような巨大な脂肪滴は、さすがのオートファジーでも分解するのは難しい。
『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』 水島昇 PHPワールド・サイエンス新書 No.482
となると、オートファジー・ダイエットとは何?という疑問が出てくる。
その上で、Amazonで検索を続けると、『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』と『「空腹」こそ最強のクスリ』の2つが上位にヒットする。キーワードに「ダイエット」を追加すると、『「空腹」こそ最強のクスリ』が最上位となる。
そこで、『「空腹」こそ最強のクスリ』青木厚著を読んでみた。リンクをクリックしていただくと分かるが、【いま話題の「16時間断食」は、この本から生まれました! 】、「無理なくやせる!」という、うたい文句が書かれている。
この本を注意深く読むと、やはり「ダイエット」が全面に出されている訳ではない。「はじめに」にそのエッセンスが凝縮されている。
最後にものを食べてから10時間ほどたつと、肝臓に蓄えられた糖がなくなるため、脂肪が分解されエネルギーとして使われるようになり、16時間を超えると、体に備わっている「オートファジー」という仕組みが働くようになります。
オートファジーとは、「細胞内の古くなったタンパク質が、新しく作り替えられる」というもので、細胞が飢餓状態や低酸素状態に陥ると、活発化するといわれています。
体の不調や老化は、細胞が古くなったり壊れたりすることによって生じます。
特に、細胞内のミトコンドリア(呼吸を行いエネルギーを作り出す重要な器官)が古くなると、細胞にとって必要なエネルギーが減り、活性酸素が増えるといわれています。
オートファジーによって、古くなったり壊れたりした細胞が内側から新しく生まれ変われば、病気を遠ざけ、老化の進行を食い止めることができるのです。(中略)
といったさまざまな「体のリセット効果」が期待できます。
『「空腹」こそ最高のクスリ』 青木厚 アスコム P22-23
まさに、「空腹は最高のクスリ」なのです。
さて、以下自分なりの理解をまとめておきたい。
〇オートファジーはダイエット(やせる)とは直接関係しない。オートファジーは「アンチエイジング」と関係する。
〇ダイエットと関係するのは、10時間食べないと脂肪が分解されエネルギーとして使われるというメカニズムの部分。
これで、水島氏の主張との整合は取れるのではないか。
なお、オートファジー・ダイエットの話の中で、「ナッツなら食べてもいい」という話を聞いた。この出典は、おそらくこの青木さんの本なのであろう。(だとすると、この本の影響力はものすごい。帯で「Daigoが実践中」と紹介され、中田敦彦のYouTube大学でも取り上げられている。アマゾンカスタマーレビューも2021/7/5現在1720個もある。)
ナッツに多く含まれている不飽和脂肪酸が、オートファジーを活性化させることも、まだ研究段階だがわかってきた、と説明している。
個人的には、16時間の空腹でオートファジーが発動するのが正しいとすると、その間にナッツを食べてしまうと、発動しない(あるいは活性化しない)と考えるので、自分はナッツを食べることはしていない。
ここからさらに懐疑心を高めて、なぜ16時間なんだろうと思った。そこで、『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』に戻ると、「飢餓状態でオートファジーが活性化される」と、あらゆるところに書かれているが、時間の目安は書かれていなかった。
また、「私たちの体ではいったいオートファジーがどのようなときに、どのような働きをしているのかは全く別問題である。(No.819)」と書かれており、「残念ながら人間のデータはまだほとんどない。(同左)」ようだ。
とはいえ、「おそらくその多くは人間にもあてはまることであろうと予測される。」とも書かれているので、さほど悲観しなくてもよさそうだ。
16時間ルールをもう少し追いかけると、水島氏はコラムで以下のようなことを書いている。興味深いので引用しておきたい。
1日、2日の飢餓であればオートファジーが活性化されて、それに適応しようとするが、さらに続くとどうなるか。普通の体重のヒトでも約2ヶ月は水だけで生きられるらしい。体重が100 kg を超えるようなヒトであれば、7~8ヶ月は全く食べなくても健康を維持できるという報告がある。その間オートファジーがずっと活性化状態にあるとは考えにくい。事実、ヒトでの絶食開始後の経時変化をみると、タンパク質は最初の数日間で急速に分解されるが、その後あまり分解されなくなる。タンパク質に関しては代謝をストップさせ、じっと飢餓を凌ぐ態勢に入る。この間、脂肪は分解され続け、主なエネルギー源となる。動物の冬眠も同じような状況になると考えられ、そこではオートファジーを含めたタンパク質の分解はあまり活躍する場面ではないのであろう。絶食がさらに続いて脂肪の蓄えも尽きてしまうと、ふたたびタンパク質が急速に分解され始め、それはまさに死に直結する。つまりオートファジーが重要なのはおそらく最初の数日間であろうと推測される。
『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』 水島昇 PHPワールド・サイエンス新書 No.1029
飢餓状態を作ることでオートファジーが活性化する。ただし、(繰り返しになるが)人間の場合、一般的にどのぐらい空腹時間を作れば「飢餓状態」となり、オートファジーが最も活性化するかは、分かっていない。
重箱で恐縮だが、以下の疑問についても触れておきたい。16時間を超えてオートファジーという仕組みが働くのなら、空腹時間が16時間というのは、(オートファジーが働くには)足りないのではないかという疑問である。
ここに関しては、著者は以下のように記述しているくだりがある。やはり、16時間ありきという考え方はやめておいた方がよさそうだ。
また、もう少し頑張れそうであれば、昼食や夕食を1回だけ我慢して、ぜひ「24時間の空腹」にチャレンジしてみてください。
週に1回、「まる一日、ものを食べない」状態を作ることで、この食事法の効果はさらに高まるはずです。空腹の時間が長ければ長いほど、脂肪の分解が進み、オートファジーもより活性化するからです。
『「空腹」こそ最高のクスリ』 青木厚 アスコム P130
最後に、自分の結果と感想について、書いておきたい。
16時間空腹は3週間ほぼその通りに実践した。結果、1kg痩せた。すでにかなり理想的な体重まで落としているので、(太らない時点で)効果はあると思う。
ただし、空腹の時間以外は、つまり8時間の間は何をいくら食べても大丈夫というのは、違っていると思う。ここも、本を注意深く読むと、実は「いくら食べてもいい」とは書いていない。「何を食べていただいてもかまいません」という書きぶりが、世間で若干誤解を招いているかもしれない。
オートファジーの活性化は置いておいて、少なくともダイエットに関しては、8時間の間にたくさん食べたら成功しないと思う。自分は毎朝体重を量っているが、夜食をたくさん食べた翌日は確実に太っている。
以下の文を引用しておく。ダイエットに関しては、結局ここが肝なのではないかと思う。
やはり最初のうちは、空腹の時間が終わったとたん、ご飯や麺類、パンなど、糖質の多いものや甘いもの、牛肉などを食べたくなる人もいるでしょう。
『「空腹」こそ最高のクスリ』 青木厚 アスコム P95
しかし、体が慣れ、「空腹力」が鍛えられれば、少しずつそのような「ドカ食い」をすることはなくなっていくはずです。