斎藤静樹著 『企業会計入門』から-企業会計の仕組み③

ぎばーノート~ギバー(Giver)という生き方の記録

不動産会社が借り入れた資金でマンションを建設したものの、急激に市況が冷え込んで多くが売れ残ったとします。売れ残った資産のコストは、もはや回収不能と判断されない限り将来に繰り越されますが、金利負担はそのまま当期の費用となり、それが当期の営業利益を上回れば赤字になってしまいます。これを回避するには、金利費用もマンションの建設コストと合わせて資産の原価に含めればよいと気づいた人がいるとします。すぐには理屈が呑み込めない上役に代わって、その会計方法が現在および将来の利益を財政状態にどのような影響を与えるかを解説してください。

『企業会計入門』 斎藤静樹著 有斐閣 P60-61

販売用不動産等

本題からずれますが、不動産会社がマンションを建設したとあります。まず、この建物はどんな勘定で処理されるのでしょうか。普通に考えますと販売目的で建設したマンションだと考えられますので、これは固定資産ではなく、「販売用不動産」等の科目を使って棚卸資産として処理します。

棚卸資産ですので、販売時に売上を計上するとともに、対応する在庫を売上原価に振り替えます。

利息はいつも期間費用か

さて、「売れ残った資産のコストは、もはや回収不能と判断されない限り将来に繰り越されます」とわざわざ書いているのは、売れ残った資産のコストは、棚卸資産としてそのまま残すという前提を置くためだと思います。

一方、「金利負担はそのまま当期の費用となり」とさりげなく書いています。ここに違和感を覚える人は少ないと思います。

マンション建設資金を借り入れで賄っているので、マンションが売れない限り返済できず、その間利息が発生します。そして、この利息は、棚卸資産のコストとは切り離して、期間費用として費用処理します。これを皆当然だと思っています。

建設費の諸費用について

ところが、マンションの建設コストの中には、諸費用といわれるものがあり、ちょっとググるといろんなものが出てきます。ざっと列挙すると、現況測量費、印紙代、保険料、登録免許税、司法書士手数料、不動産取得税などがあります。これらも販売用不動産の取得原価として、棚卸資産に算入されます。

さて、これらの諸費用と、紐づけ融資の金利を分けるものはなんでしょうか。「取得原価」の一部として認める、つまり棚卸資産で受けることは本当にできないのでしょうか。

もし仮に取得原価の一部として認められ、棚卸資産に算入できるのであれば、マンション販売前に利息だけを先行して費用処理する必要はなくなり、赤字の削減、もしくは赤字の解消が可能になります。

回答案

設問は、「その会計方法が現在および将来の利益を財政状態にどのような影響を与えるかを解説してください」ですので、そちらについて説明します。

金利が棚卸資産の資産計上可能となれば、金利部分が先行して費用処理されず、販売に応じて売上原価として費用処理されるため、当該マンションプロジェクトが黒字である限り、赤字にはなりません。(厳密には、いつまでの借入利息が棚卸資産に算入できるかという議論がありますが、ここで割愛しています。)

ただし、得をするということではありません。金利が棚卸資産に乗っかるということは、販売時の費用処理される売上原価も大きくなるため、全体としての利益に変化はありません。

期間帰属の違いにより、先行的に赤字が発生するケースをなくせる効果があると言うことです。

日本基準

さて、日本の会計基準はどうなのでしょうか。

日本公認会計士協会の建設業部会が、昭和49年8月に「不動産開発事業を行う場合の支払利子の監査上の取扱いについて―業種別監査研究部会の申合わせ―」という研究部会報告を出しています。

これによれば、「固定資産の建設に要する借入資本の利子で稼動前の期間に属するものは、これを取得原価に算入することができる。」としています。なお、この規定は、「大蔵省企業会計審議会 企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書 連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について(昭和35年6月)」の四.2をリファーしたものとなります。

なんだか随分古い基準ですね。実際に、この基準を根拠に、プロジェクトファイナンスの金利の資産化を行うことは、ほぼないと思われます。EYの業種別会計『不動産業 第2回:不動産分譲業の事業と会計の特徴』にも、「実務上は、要件の判定の煩雑性や保守主義の観点から、実際に利子を原価算入しているケースは少ないと考えられます。」と書かれています。

ここで蛇足かもしれませんが、日本基準が認めているのは、あくまで稼働前の期間に属するものです。売れ残った期間中ローンが継続され、その間発生する費用は認められていません。

IFRS

IFRSはどうなのでしょうか。これは、IAS23の「借入費用」に規定されている。

「資産の取得原価には、その資産を意図したように使用または販売したことが可能となるようにするために必然的に発生したすべての費用を含めなければならず、これは、資産の開発中に生じる支出のための資金調達で発生した費用についても、例外ではない(出典:https://jicpa.or.jp/specialized_field/ifrs/journal/pdf/1010_ias23-ias2.pdf)」として、資産化が強制されている。