【日経ビジネス】 2021/11/4

ぎばーノート~ギバー(Giver)という生き方の記録

大槻祐依(FinT代表取締役社長) 誰かのランキングよりも自身の「バイブス」

この記事、「バイブス」の定義がない。説明不要なほどメジャーな言葉なのかと思うと、すでに自分は流行に乗り遅れていることを実感する。

コトバンクによれば、「(言葉によらず伝わってくる)雰囲気、心の中、考え方といったことを意味する英語。」とのこと。英語の綴りはVibes。

Z世代の生き方の多様化は、どうやらキャリア・ライフプランに限った話でもないように思うという書き出しで始まる。

東京オリンピックでスケートボード男子ストリート金メダルの堀米雄斗(ほりごめ・ゆうと)は、コーチの推測ではあるが、「誰かの評価やランキングでトップになるのが目的ではなく、ただ『自分がかっこいいと思うプレー』、バイブスを追求した結果として順位がある」ようだ。

エンターテイメントでのその傾向があるとして、「自分とは違う『変わっている』人を否定しない、そうした他者に突っ込むことなく、むしろ受け入れた上で笑いを取る。」方向に、社会の価値観が変容していると書いている。

誰かに評価される、誰かと比べると言った価値観に縛られない、個人個人が持つ自分の感覚で、自由に生きていく時代に変わってきているということだろう。これは、ステレオタイプ教育を受け、常に比較して競ってきた人間からすると、身近にベンチマークがないので、実は大変である。

私の世代(60年代後半)は、レールが敷かれていたので、非常に楽な人生を過ごしてきたんだなと思った。

鷲尾龍一(日経ビジネス記者) 企業買収の新たな盾と矛となるか 東京機械の防衛策が意味すること

MOMという言葉を知らなかった。マジョリティー・オブ・マイノリティー。これは、大規模買い付けを行った買収者以外の「一般株主」から過半数の賛同を得られれば、買収防衛策を発動できるとした手法のことを言う。

今回記事で取り上げているのは、東京機械製作所である。大規模買付行為等を行った4割の株式を保有するアジアインベストメントファンド(以下アジア社)を除いたマイノリティー株主の中で、過半数の賛同を得ることで、買収防衛が可能となる。

いわゆるポイズンピルの中身は、次の通り。「同社が株主に無償で新株予約権を割り当てたうえで、株主に強制的に普通株式を交付する。ただし、アジア社に対しては、大規模買い付けを中止または撤回しない限り、普通株を交付しない。その結果、アジア社の持ち分が希薄化するという仕掛けだ。」

なお、詳細は会社のウェブを見れば、適時開示で詳細な資料が大量に閲覧可能だ。ただ、その気力はないので、記事を読んで2つ面白いと思ったことについて書きたい。

1つは、今回東京地裁が、会社のMOMという手法を用いた買収防衛策の発動を認めたこと。(即時抗告のため、最終結論は出ていない。)

東京地裁は「強圧性」を持ち出して「直ちに不合理であるとはいえない」と認定した。記事には、「強圧性とは、一般株主が『本当はもっと高い値段で売りたいが、急速に買い集める株主がいつ買いを止めるか分からないし、今のうちに売却しておかなければ乗り遅れるかもしれない』などと判断が狂わされかねない環境下に置かれること」と書かれている。

買収者により、株価がどう変動するか分からず、判断が狂う環境下となったので、少数株主の保護のため、買収防衛を認めるという話である。(そう解釈した。)しかも、その決議を少数株主だけで決められる(つまり買収者本人は蚊帳の外)という。

なるほど理屈は分かるが、資本の論理から、相当に離れた判断であり、これって会社法上本当に大丈夫なのかと思わせる、かなりセンセーショナルは決定だと思う。

もう1つは、東京地裁は結論を臨時総会後に持ち越したことである。結果を見て、裁判所は買収防衛策の発動の是非を判断したのである。

アジア社を除く、少数株主は60%。そのうち賛成率は78.96%に上ったという。(厳密には、役員なども利害関係者として除かれている。)

ざっくり言って、アジア社の買収に反対の株主は、全体から見れば39.5%(60%×78.96%)ということだ。これは、ある意味微妙な数字である。「アジア社以外の株主の8割が、アジア社の買収に不満を表明している(歓迎されていない)」と考えれば、買収防衛策は発動されるべきというのが株主の総意と言える。一方、絶対数から言えば、アジア社は自分の持分より少ない賛成票で、自分の株式が希薄化させられてしまったことになる。

買収防衛策としての是非を判断するのに、結果は関係あるのだろうか。実はここが気になった。もし仮に、賛成票が51%程度しか集まらなかった。つまり拮抗してしまったら判断は変わるのだろうか。判断が変わるとすると、その理屈はどこからくるのであろうか。

そもそも、ポイズンピルの内容が、「無償で新株予約権が割り当てられ、強制的に普通株式が交付される」のだから、交付されないアジア社の分だけ、一般株主は何もせぬまま、勝手に株主としての持分が増加するのである。反対する人はいないのではないか。

さらに、事実誤認の可能性がある(しっかり適時開示を読んでいない)ので、書くのに勇気がいるが、このアジア社、現状は単に大量買い付け行為をしただけなのである。取締役の選解任の議案を提出したり、TOBをかけたりなどはしていない。もちろん、記事にある約40%が事実なら、事実上支配権を手にしたと言えるが、会社は33%弱の時点で、買収防衛策を打ち出している。

裁判所が、かなりあいまいな概念を持ち出して、しかも結果を見てからの後出しじゃんけん的な判断をしたとすると、今後は、個別性が強く働く、難しい運用になるのではないだろうか。

別の言い方をすれば、やはり時代は変わったのかもしれない。資本の論理だけで押し通すことは許さない、弱者救済という思想が広がっているのかもしれない。

ちなみに、記者の関心は、私とは別の方向にあるので、記事の続きに興味のある方は読んでほしい。

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