斎藤静樹著 『企業会計入門』から-企業会計の仕組み④

ぎばーノート~ギバー(Giver)という生き方の記録

ある会社の所得隠しを疑って内偵を続けていた国税査察官(マル査)が、架空仕入れの情報をつかんで裁判所に捜査令状を請求したところ、出てきた真面目な裁判官が「待ってください。架空の仕入れを計上していれば財産が水増しされて、むしろ所得は実際よりも増えてしまいませんか。脱税どころか、あえて余分に税金を納める結果になるように思うのですが…」という悠長なコメントをしたとしましょう。

この裁判官を説得するには、企業会計の仕組みをどう説明したらよいでしょうか。順序として、まず架空仕入れをしても所得が増えるということはない点を納得させ、そのうえで脱税になる可能性(シナリオ)を説明してください。

『企業会計入門』 斎藤静樹著 有斐閣 P60-61

架空仕入れとは

架空という言葉は、存在しない、実在しないという意味ですから、架空仕入れとは、本当は存在していない在庫をあるように見せかけるという意味になります。これは、不正であるので、悪いこと、やってはいけないことだということは、誰にも想像がつくと思われます。

ただ、なぜそのような不正を働くかと言えば、通常は会社もしくは関わっている個人が何かしらの得をするからではないでしょうか。

架空仕入れの典型例

通常、架空仕入れが行われているケースは、会社が得をするより会社が損をするケースが多いと思われます。これは、仕入れ担当者と仕入れ業者がグルになって、会社に通常より高い金額で買い取らせて、後で仕入れ業者から仕入れ担当者がキックバックをもらうケースです。

これは非常に典型的な架空仕入れの事例となります。

ただ、設例がマル査なので、仕入れ担当者(従業員)の不正を考えるのは適当でないですね。ここでは、経営者が直接絡んだ不正を考えておきましょう。つまり、キックバックは社長個人に入るものと想定します。

財産が増えることと、所得が増えること

まさに、架空に仕入れた商品は売れない限り、在庫として帳簿上残りますので、財産(棚卸資産)が水増しされるという意味では合っています。しかし、裁判官はさりげなく、それを以て「所得が増える」と言っています。これは本当でしょうか。帳簿上、水増しされたものを抱えている状態では、利益には一切影響がありません。利益というのはものを売って初めて発生するものです。(ここでは在庫を評価損で落とすと言ったややこしい話はないことにします。)

ですから、財産が水増しされても、所得は増加しません。

脱税のシナリオ

ここで、「脱税になる可能性」と先生は言っていますが、なぜ「可能性」なのでしょうか。それは、在庫(財産)が水増しされている状態では、所得に影響がないので、脱税にはならないからです。その在庫が売れて、在庫が売上原価として費用計上されて初めて所得に影響がでます。

マル査、脱税という話ですので、やはりここは、仕入れ担当者にキックバックが入るのではなくて、はじめから社長が税金を納めたくないので、会社の利益を不当に低くして、キックバックを個人が着服するケースを想定します。

このケースでは、会社の帳簿上は、適正でない水増し価格の在庫が、売上に対応する売上原価として計上されるので、費用過大になります。よって、得べかりし利益が得ることができません。結果として所得過少となり、脱税につながるということです。

社長個人の方はと言えば、キックバック分が、申告するつもりのない所得になりますので、こちらも脱税です。

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