斎藤静樹著 『企業会計入門』から-企業会計の役割②

ぎばーノート~ギバー(Giver)という生き方の記録

バランスシートと企業価値

会社の現在の財政状態は、会社の財産(資産)と借金(負債)を対置させ、その差額を純資産(資本)とするバランスシートで表されます。会社に投資する人々のうち、債権者はこの負債の額によって、また株主はこの資本の額によって、それぞれの請求権の価値を知ることになっています。会社の保有する資産の価値が、それら請求権の価値を裏づけているというわけです。会社の経営者があなたの投資の価値についてそのように説明したら、あなたはどこまでそれを信じ、またどんなことに疑問を感じますか。

『企業会計入門』 斎藤静樹著 有斐閣 P34

ここで最初に言っておきたいのは、斎藤氏は投資する人々の中に、債権者を含めているということです。投資者は2種類あって、債権者と株主だということです。(私は前回、「投資する=株式を買う」に限定したので、「投資」定義が違っています。)

「請求権の価値」という言葉はあまり一般的ではありません。なので、この問い自体がかなり難しいのですが、私は、債権者は借入金の額、株主は資本の部の額が、その価値を示していると言っているのだと理解しました。

つまり、借入金が20億円ある企業に対して、1人の投資者が20億円を貸付しているならば、その請求権は20億円であります。また、5%の株式を保有する投資者に対して、その請求権は、(例えば)純資産(資本)が100億円ある会社ならば、100億円×5%で5億円あることになります。

そして、資産の価値というのは、現金預金、売掛金、在庫、固定資産と言った、企業が実際に保有する資産の価値のことを言っており、それが価値の裏付けとなっていると言っています。

一見、もっともらしいことが言っているようですが、皆さんはどうお思いでしょうか。

まず、債権者から見ていきましょうか。債権者は上述の例で言えば、20億円を貸しているのですから、20億円の返済を求める権利があります。会社の決算書が適正である前提を置くならば、資産はその通りの価値を有している訳で、債権者の請求権を裏づけていることになります。

その資産が30億円あればどうでしょうか。 (バランスシート(貸借対照表)は、資産-負債=純資産(資本)ですから、純資産が10億円のプラスということです。)この場合、20億円の請求権の価値は担保されていそうです。

しかし、その資産が10億円しかなかったらどうでしょうか。(バランスシート(貸借対照表)は、資産-負債=純資産(資本)ですから、純資産が10億円のマイナスということになります。)この場合、20億円を貸している債権者は、20億円の請求権の価値を有しているとは言えません。その裏付けから見れば、半分の10億円しか返ってこない可能性があるからです。

なので、債権者に限って言えば、純資産がマイナスの場合は、経営者の説明に違和感を感じるはずです。純資産がプラスであれば、さほどの違和感はないかもしれません。

一方、株主はどうでしょうか。直感的に違和感を覚えないでしょうか。今あるストックとしての純資産の持分という考え方からすれば、5億円はそのとおりです。ただ、期限のない株式ですから、株主は会社の将来の成長を見込んでおり、請求権の価値はもっと高いことが期待されているはずです。もし、会社の先行きが危ういならば、請求権の価値はもっと低いことが想定されます。

つまり、一定時点の過去のあり姿を示すバランスシートは、投資の価値を正しく説明するのは難しいのです。それは、バランスシートがその企業の将来を示してくれないからです。

その議論で言えば、債権者も、バランスシートで担保されている資産価値で、請求権の価値が保全されているとは言えません。来年大赤字になるかもしれないし、返済期限時に今のあり姿が継続される保証はないからです。

ただし、無期限の株式に比べれば、返済期限は有限なので、バランスシートによる資産の裏付けは、(予測が容易という点で)ある程度有用だということは言えると思います。

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