佐野正弘(フリーライター) ブーム終息後も日本市場に注力、音声SNS「Clubhouse」が目指すもの
私がメンバーになったのは、2021年2月18日だった。どうしても参加したいオンラインルームがあって、当日もがいたが、招待してくれる人がいなかったので、参加することができなかった。自分から登録して、誰かからの招待を待つケースは珍しいらしく、どうしていいかよく分からなかった。ほどなくして、中国時代にお世話になった方から、招待されて晴れてメンバーとなることができた。
5月ぐらいまで使っただろうか。その後は一切使っていない。
さて、記事には以下のように書かれている。
- (2021年初頭から)後数カ月のうちに人気は急速に勢いを失い、メディアで取り上げられる機会も大幅に減った。2021年5月にはAndroid版の提供が開始。2021年7月には招待制を廃止。現在は誰でも参加できるようになっている。
- Clubhouseで会話するために開く「ルーム」の数は、世界的に見ると初夏時点で30万室であったのに対し、8月が終わった時点では70万室と、倍以上に増えている。
本文から引用したものの要約
ブームは日本だけで終息したのだろうか。
日本人にとってClubhouseは、英語しか使えない使い勝手の悪さはある。ただ、それだけだろうか。
ある人は、やめた理由をこのように説明していたと思う。「録音できない。これがソーシャル・メディアとしては致命的だ。」
なるほどと思った。しようと思えば、別の携帯などを横に置いてボイスメモで録音は可能である。ただ、これはホスト側の趣旨には反している。当初の公式の規約で「録音禁止」となっていた。
ところが、今ネットで調べてみると、「Replay」と呼ばれるこの機能で、公開ルームをその場で録音し、クラブやユーザーのプロフィールに保存することができるらしい。
記事に戻ろう。記事では、日本のローカライズのため、「Clubhouse上で活躍するクリエイターが収入を得る手段の提供。」に力を入れているという。現在、いわゆる「投げ銭」の仕組みは持っているが日本では利用できない。その他の仕組みも検討中のようだと紹介されている。
記事はローカライズの文脈で紹介されているが、YouTubeやFacebookのようなシンプルかつ合理的なマネタイズが確立できるかどうかは、このソーシャルメディアが抱える根本的な問題のように思う。
もっとも、新しいメディアを創出した、クリエイティビティに卓越した経営者だから、これから画期的な仕組みを生み出すに違いない。
北方雅人(日経トップリーダー編集長) 経営学者・坂本光司氏「賃金は年齢の15倍に。社長は社員の5倍まで」
この記事面白い。「日本でいちばん大切にしたい会社」の著作シリーズで有名な坂本氏とのインタビュー記事である。自分の意見と異なるところと、目から鱗な発見の2つがあった。
まず、意見が異なるところから。
きちんとした賃金を払っていると言っていい目安は、社員の年齢の15倍程度からだと考えています。30歳で450万円、40歳で600万円の計算になります。これまで多くの企業を調査していますが、20倍払っていると高い賃金を支払っているなと感じます。中小企業でも40歳の社員に800万円前後の賃金を払っている会社はいくつもあります。
ただ、高ければ高いほどいいというわけでもありません。何事も「良い加減」が大事です。高過ぎる賃金は社員の金銭感覚を狂わせます。一度生活水準を上げてしまうと、下げるのは大きな苦痛を伴います。
(中略)
ほかにも、県庁職員の給与も参考になります。彼らの給与は民間企業の水準に合わせて常に調整されますし、一般的には高収入かつ安定した職種と認識されています。
「 経営学者・坂本光司氏『賃金は年齢の15倍に。社長は社員の5倍まで』 」 北方雅人 日経ビジネス 2021/11/8
対象となる会社は中小企業である。15倍から20倍という数字の目安を示しており、なるほどこのぐらいの水準が「きちんとしたレベル」なのかと思った。ただ、ここで当然に次の疑問がわく。賃金体系は年功序列ですかと。
坂本氏は明快に、「年功序列が基本になります。」と答えている。そして、「個人の成果や成績に基づくものは、あくまで付加的なものにとどめておくべきです。そうしないと、協力し合うべき社員同士が必要以上に競い合い、チームとしての力が発揮されなくなります。」と。
業種業態によっては、経験値が大変重要となるものも多いように思う。そのため、結果として年功序列になるケースは意外に多いかもしれない。ただし、あくまで個人個人の会社に対する貢献が大事であって、仲良しクラブでは会社(チーム)は強くならないと思う。
話は、「ただ書き」に戻る。この「高過ぎる」という水準が一体どこなのか、非常に難しい問題だと思う。これは正直、私にも答えがない。ただ、上記でいう「年齢×20倍=高い」では、あまりに夢がない気がしている。
次に、目から鱗の考えを。
経営者の中には、業績が悪くなったら真っ先に給与を減らしたり、リストラをしたりする人が多くいます。これでは社員に一生懸命働いてもらうことは難しい。
このような行動に至るのは、経営者の頭の中に「利益=売上高−費用」という数式が強くあるからだと感じています。この数式に基づいて利益の最大化を考えるなら、売り上げ向上と同じだけ費用削減が重要です。そして、ほとんどの企業で、費用のうち最も大きなものは人件費です。この数式を「利益+費用=売上高」と捉え直す必要があります。
売り上げは、それそのものを追いかける対象ではなく、必要な利益と、人件費をはじめとした費用を足した数字だということです。
毎年の経営目標を売上高から考える経営者は、根本的に間違っています。社員により高い給与を払うために経営目標を立て、社員と共に実現していくことを目的として経営をすべきです。
「 経営学者・坂本光司氏『賃金は年齢の15倍に。社長は社員の5倍まで』 」 北方雅人 日経ビジネス 2021/11/8
インタビュアーに、「数学的には単なる移項です。」と突っ込まれているが、この発想は面白いと思った。そもそも、これは企業というものの社会的役割を理解していない、聞くに値しない理屈だという声も聞こえてきそうだが、このインタビューのタイトルは、「人件費を払うことを経営の目的にせよ」である。経営目的に照らして、この考えは首尾一貫している。
それと、もう一つ紹介したい氏の考え方がある。
- 同時に、経営者自身も報酬を取り過ぎない配慮が必要。具体的には、社員の給料の4、5倍までにとどめるべき。
- この数字には根拠がある。社員が仮にほとんど残業をしていなければ、勤務時間は1日8時間。年間勤務日は240日前後。対して経営者は、24時間365日を「経営者」として考え、動かなければならない。働く時間の長さだけ、多く報酬を得る。
- 社長は偉いわけではなく、会社の中での1つの役割。
本文からの引用を要約
なるほど理屈である。かつて、NewsPicksのイノベーターズ・ライフで、CoCo壱番屋の元社長である宗次徳二氏がインタビューに次のように答えていたのを思い出す。
宗次流では、社長の経営実務時間は年間4380時間以上です。
イノベーターズ・ライフ #16 宗次徳二 NewsPicks
つまりは、1日労働12時間×365日。休みを取りたければ、1日10分間だけ余分に仕事をすれば、10分×365日で年に5日分は休めます。1日あたり13時間働ければ、年間30日は休める。
現場主義を貫いたうえでこれだけまじめに働けば、たいがいは成功します。
現役の時、私は社長ならばこれくらい働いて当然だろう、と思っていました。
これだけ働くとなると、実働時間で言えば、従業員の2倍強である。坂本氏は24時間365日働くとして、4、5倍としている。そして、働く時間で比例配分されるべきだと言っている。
社長が「1つの役割」というのであれば、働く時間の長さだけではなく、責任の重さを考慮すべきであろう。結果として、4,5倍という方が理解しやすい。ただこれだと、責任の重さが従業員の2倍になってしまうので、「計算根拠は」とか「そんなに低いはずはない」といった議論を惹起するので、そう簡単な話ではないかもしれない。
ただ、この考えが示すところでは、同じ人間として役割の違いがあるだけであって、その差が何十倍、何百倍になるのはおかしいだろう考える感覚には、私も完全に同意である。