『総理通訳の外国語勉強法』 中川浩一著 講談社現代新書 2020年1月

バブル世代の書評ブログ

語学★★

紹介文

高校時代外交官という職業にあこがれ、念願の外務省に入ると、担当はまさかのアラビア語だった。入省3年後にアラビア語と英語をマスターする必要に迫られた著者の「最短で成果を出す方法」がまとめられたもの。「オリジナル単語帳」と「自己発信ノート」で、「スピーキングファースト」に徹する。

きっかけ

9月に前職の同僚と金沢旅行に行った。その帰りに羽田空港の書店で、外国語関連の本だけがスチール製の回転ラックに収められていた。何気なく見ると「英語脳」「ネイティブ脳」と書かれた本ばかりである。

私はなぜかそれらの本には手を出さずに、「通訳」の勉強法というタイトルに興味を持った。総理通訳とあるのでソデにある著者紹介を見ると、どうも現役の外務省官僚のようだ。現役ならば、安倍さんに随行してオバマやトランプと通訳エピソードも面白そうだと思った。また、絶対に間違いが許されないガチガチの通訳で(総理通訳という)超一流になったメソッドも知りたいと思った。

スピーキングファースト

最初に断っておく必要がある。それは、私は完全に勘違いをしてこの本を買ってしまった。英語通訳だと思い込んでいたのである。アラビア語通訳であることを知って、若干がっかりしたが、外国語学習法には必ず共通点があるだろうから、そこを吸収しようと思って読み進めた。

著者の場合、外交官なので、アラビア語習得の目的は明確だ。「外交交渉がアラビア語と英語でできて、アラビア語で通訳ができて、それを成功させること」。「すべての学習のゴールを『話すこと』にして、そこから逆算した」と書かれている。

これには、今の私は完全に同意である。

40年近く英語を勉強して「英語ができるとは言えない」自分、勉強を開始してからわずか8か月で「中国語はある程度できると言えた」自分が、ある程度実証している。

中国語が短期間で伸びたのは、平易な文で構成されたショートストーリーを徹底的に暗記したからだと思っている。暗記しているから、覚えた範囲内のことはすぐ口を突いて出る。気が付いたら普通にしゃべっている。相手の返事が半分分からなくても何度か聞き返せば会話になる。だからできた気になる。

勉強法のエッセンス

外国語の習得には1%の才能もいらないと言う。大事なのは正しい方法と謙虚さと努力だという。これは「センスねえな」と思ってすぐやめてしまう人、しゃべれるようになりたいと何度夢見ても、無理と思って繰り返し繰り返し挫折してしまう人にとっては、勇気をもらえる一言である。

謙虚で素直である日本人の特性は外国語学習に向いている。これも、そうかもしれません。

外国語学習は、スタートダッシュが「肝」

その意欲が消えないうちにスタートダッシュすることをおすすめします。

これは飛行機と同じで、安定飛行に乗せる前に、まずは外国語という世界の上空にあなたの脳を移動させる必要があるからです。

私はエジプトに留学後、先述のトンシー教授に最初の3ヵ月間はとにかく全力投球せよ、語学ではスタートダッシュが大事と言われ、がむしゃらにやりました。

『総理通訳の外国語勉強法』 中川浩一 講談社現代新書 P48

飛行機の離陸の話は、イメージが湧きやすい。ここで言いたいのは、ゼロイチのときが大変ということか。燃えているうちに習慣化まで持っていけということか。多分後者だと思う。

ある文章を読めて理解できるようになったら、それを耳で確認する。ここでは「理解している文章だけ」を聞くことが強調されている。「繰り返しますが、リスニングのコツは、聞き流さず、習った文章だけをひたすら何度も聞き『復習』することです。」言い換え表現などの応用の前に、徹底的に耳に入れろということだと理解した。

ネイティブ脳

ここは著者はちょっと熱い。

「日本語ファースト」。まず、日本語で話す内容を考え、それから外国語に「置き換え」ましょう

これからは、日本語を基軸にまず話したい(アウトプットしたい)ことを決めて、それを外国語に置き換えるために外国語をインプットするのだという発想に転換してください。

今日からテキストは、あなたが話したい内容を外国語に置き換えるための材料箱と考え、選んでください。

『総理通訳の外国語勉強法』 中川浩一 講談社現代新書 P66, 68

著者の仕事柄、何となくは全く許されないので、最初からこういった発想になるのであろう。私は「ネイティブ脳」を作るメソッドが間違っているとは思わない。ただ、少し試そうとしたが、英語オンリーで聞き・読み、一切の翻訳を挟み込まない、つまり分からない単語も英英辞典しか引けない訳なので、相当に辛い勉強法なのである。また、日本社会におけるビジネスシーンでは、分かっている人は必ず通訳的な補助をする必要があるので、「ネイティブ脳」は意外に利用勝手が悪いともいえる。

「インプット」より「アウトプット」

リーディングから始めない、それは「悪魔のささやき」だという。私は、著者がいう理由はあまりピンとこなかったが、リーディングから始まっている日本の教育で話せる人がほとんどいないので、その教えだけここに書き残しておく。

リスニング能力を伸ばすために音だけ聞くことに対して疑問を投じているのは、非常に納得できる。

「そもそもリスニングってどのような場面で必要ですか。ビジネスシーンであれ日常的な場面であれ、外国人とコミュニケーションを取る、つまりあなたが何かを話して、そして外国人の話を聞く場面ですよね。そういう意味で、リスニングは本来スピーキングとセットで考えなければならないはずです。」

『総理通訳の外国語勉強法』 中川浩一 講談社現代新書 P80

そして筆者の成功体験が次の言葉で端的に書かれている。

私はアウトプットの学習から開始しました。スピーキングのためにとにかくたくさんの単語、表現、文章を覚え、外に「発信」していくと、そのレベルの向上に合わせ相手の話もわかる、つまり「受信」できるようになっていきました

『総理通訳の外国語勉強法』 中川浩一 講談社現代新書 P82

そこで話は英語になります。英語は今まで大量にインプットだけが行われてきているので、単語を次の3つに分類せよという。

アウトプットしたことがある(発声できた)単語
アウトプットしたことがない単語

そして後者を「日本語からは発声できなかったが、英語を見れば知っていた、つまり脳の中では覚えていた単語★」と「英語を見てもわからなかった単語」の2つに分ける。

★は、インプットとアウトプットの距離を埋めるためのターゲットにすべき単語で、これが大切。なぜならば、知らない単語より口頭で使える可能性がはるかに高いからという理屈である。

具体的メソッド

外国語を習得するメソッドを知りたい人にとっては、ここからが肝である。私はその中で、基本と位置付けられている2つが大変に気になった。それについて紹介し、自分の考えを述べてみたい。

自己発信ノート

学習する題材を最大限活かして自己紹介や自分の意見をまとめた文章を作り、いつでも自分から話せるようにこれらのノートを書き留めて暗記しておく

これを「自己発信ノート」と呼ぶことにします。

(中略)是非この「自己発信ノート」を「日本語」で作成することから始めてみてください。

『総理通訳の外国語勉強法』 中川浩一 講談社現代新書 P94-95

これは、やろうと思うと結構大変である。まず、完全に自分の言いたいことを日本語で書き始めると、それに対応する英語が手元にないので挫折する。これは著者もあとで述べているが、「自己発信に役立つ、学習する題材」を探し出すのが非常に重要となる。自己紹介から始まり、タクシー、電話、買い物などはたくさん教材があるだろう。しかし、会社の業務となると、私の場合監査人だったので、市販のテキストには全く出てこない。添削してくれるネイティブのサポートが必要になる。

今考えていることは、日本語で書くことに集中し、それを翻訳機にかけて、暫定的に英語化することだ。それをベースに自分の今の実力で、そこそこ通じる英語に変える。ここまでは自力でできる訳だが、こんな言い回しは絶対にしない、あるいは絶対に思いつかないところは、要注意。マーカーを引いておくか、思い切って自分の表現に取り換えてしまおう。

その上で、指導者のレビューがほしいところ。オンライン英会話で添削してもらうのもいいだろう。ただし、私の経験では、英文添削が得意な先生とそうでない先生がいる。細部にこだわりすぎる人、全部書き換えてしまう人、何でもOKと言う人、そもそも言いたいことが伝わらない人。なので、自分に合った先生を選ぶのは、じっくりと時間をかける必要がある。

オリジナル単語帳

この本を読んで、一番気になったのがここである。単語帳なんていまどき超アナログだし、今更そんな暗記して意味あるのと思うかもしれない。

よく使う単語は脳の上層部にあり新鮮な状態を保っていますが、ふだん使わない単語は、脳の奥底にゴミとなって沈んでいるか壁に垢となってへばりついていると考えています。

(中略)ですので、ビジネス本番で必要な単語を瞬時に取り出すには、自分の脳を絶えず新鮮な状態にしておくために、ゴミや垢となった単語をそのまま脳の同じ場所に置いておかない工夫が必要です。

そのために、あなたに現在必要な単語だけを抽出した、自分仕様の「オリジナル単語帳」を作成することを強くおすすめします

「オリジナル単語帳」は、あなたが外国人に発信する可能性のある単語に絞ることがポイントです。

したがって、そのベースになるのは、先に提唱した「自己発信ノート」やあなた自身が選んだ題材となります。

『総理通訳の外国語勉強法』 中川浩一 講談社現代新書 P110-112

なぜ気になったかというと、「私に現在必要な単語だけを選ぶ」というコンセプトに惹かれたからである。今までそのような発想で単語帳を作ったことはない。受け身から能動的に変われば、単語帳は自然と見直すような気がしてきた。

著者はこれを手書きで行っていたようだが、エクセルやGoogleスプレッドを使ってもいいし、単語帳アプリを使ってもいいと思う。私は、昔ダウンロードして使わなくなってしまったSmaTanWordHolicを使って、改めて再構築してみようかなと思っている。

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